藤子・F・不ニ雄 「流血鬼」 ('78 少年サンデー)

主人公の少年が、吸血鬼を先の尖った木の杭で、突き刺すシーンから物語は始まる。世界は吸血鬼の脅威にさらされている。すでに多くの土地が吸血鬼の支配下に置かれてしまっている。それは少年の住む街も例外ではない。ひとり吸血鬼に抵抗を続ける少年の前に、ある日、吸血鬼と化したガールフレンドが現れ、そして語りかける。「人間の世界は終わった」と。さらに「血を吸わせてほしい」と。

しかし、その少女の目的は少年を絶望させることではない。少年を救いに来たんだ。血を吸われた人間は、吸血鬼ウィルスに伝染し、吸血鬼と化す。が、それは死を意味しない。生まれ変わりを意味する。旧人から新人への生まれ変わる儀式だ。少年と少女の出会いが、旧人(人間)と新人(吸血鬼)の対比を加速させる。新人に対抗するために、旧人は尖った杭で胸を突き、容赦なく殺そうとする。排除しようとする。そんな残虐な旧人を新人は「流血鬼」と呼ぶ。一方で、新人は旧人を取り込もうとする。つまり仲間にしようとする。“血を吸う”という行為は、旧人には残酷に映るが、それは決して旧人を排除しようとする行為ではない。

結局、少年は少女に首筋を噛まれてしまい、「吸血鬼」となってしまう。一時的な仮死状態から目を覚ました少年の世界は変わる。旧人であった頃の少年ならば、少なからず不気味に感じたであろう「赤い目」や「青白い肌」や「夜」に、新人へと生まれ変わった少年は、それらに「美しい」という新たな価値観を見出して、この物語は終わる。わずか40ページの物語で、これほど見事にパラダイムシフトの瞬間を描き切った作品はそうはないと思う。吸血鬼をモチーフにした数多くの作品の中でも逸品である。
*参照(藤子不二雄GALLERY
  
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by bigflag | 2004-12-01 21:59 | ・マンガ | Comments(3)  

Commented by kinya_0805 at 2004-12-05 22:39
うちのブログにもわざわざコメントありがとうございます。
ぼくもこの単行本シリーズ大好きです。まさに大人向けに書いたといった感じの作品が多いですよね。吸血鬼の話も新しい解釈で、吸血鬼側の視点から描かれた興味深い作品ですね。
Commented by shinobu_kaki at 2005-01-13 15:31
ども。
藤子不二雄SF短編集(愛蔵版ですべて持っています)は、
長いこと僕の漫画フェイバリットであり続けました。
大好きです。どの作品も「黒いF」の才能爆発だと思う。
パラダイムシフトの話でいうと、
主人公が「21エモン」そっくりの「ミノタウロスの皿」。
地球における人間と牛(家畜)のポジションが逆転した秀作ですよね。

Commented by bigflag at 2005-01-15 01:46
>愛蔵版ですべて持っています
すごいですねー 俺なんか全部、文庫ですよ。さらに言うと、全て古本です。
もっと言うと、文庫未収録作品は、図書館で借りてコピーしました・・・

短編は好きな作品が多いので、少しずつレビューを書こうと思っています。
ミノタウロスの皿も逸品ですよね~

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