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鉄砲玉の美学 ('73 日本)

監督 : 中島貞夫
出演 : 渡瀬恒彦(小林清)、 森みつる(よし子)、 杉本美樹(潤子)
     小池朝雄(杉町)、 川谷拓三(杉町の舎弟)

頭脳警察の 「ふざけるんじゃねえよ」 をBGMに、オープニングで人々が飽食するさま、また、その結果出る大量のゴミ、残飯などの映像をコラージュしながら、勢い良く映画の幕は開ける。が、音楽が鳴り止むと、八百屋で地面に落ちたキャベツの欠片を拾い集める男の姿が映される。とても対照的なシーンだ。その男(清)の置かれている状況が、その絵ですぐに理解できる。そんな清だったが、幹部から 「鉄砲玉」 へと指名されたことで、転機が訪れる。清は 「力」 の象徴とも言える 「金」 と 「銃」 を手に入れる。それらは自己の存在を他者に知らせる手段となる。「素」 の清が相手にできたのは、せいぜい自分の情婦か飼っていたウサギくらいのものだったんだから、えらい違いである。

しかし、清はその 「力/状況」 を自らの 「命」 と引き換えに手に入れた。「鉄砲玉」 として訪れた九州では、些細なことに怯える日々が続く。とはいうものの、ヤクザ間の駆け引きから、「鉄砲玉」 という清の持つ肩書きが、清の 「護符」 へと反転する。そして、そのことが、清に 「鉄砲玉」 本来の持つ役割を忘れさせることとなる。

さらに九州の地元組織の幹部・杉町の情婦である潤子との出会いが、清を変容させる。都城での清と潤子のセックス描写がスゴい。行為の最中に、清の過去のトラウマが一気に噴出し、それを潤子に全てぶつける。こういうものを呪詛と言うんじゃないのか。しかし、もっとスゴいのは潤子だろう。一晩で清のトラウマを浄化させてしまったんだから! 翌朝の清は、ただの観光客(兼コック)になってしまう。「鉄砲玉」 として指名された人間が、一夜にして 「一般人」 に変容してしまったわけだ。つまり、この時点で清の人生はほぼ破滅が決定した、ということ。潤子が自分の元を去ってもなお、「神々がいる」という山・霧島に向かおうとする清。霧島へと向かう意味合いも、ここで反転している。おそらく祝祭的なものから、救済的なものへと。

この映画では、そういった 「反転」 が執拗に描写されている。タイトルにある 「美学」 なんて一度たりとも描かれてはいない。それどころか主人公は「鉄砲玉」の役割すら忘れてしまう。これは、とても皮肉の効いたタイトルを冠す異形の任侠映画である。
  頭脳警察 「3」

by bigflag | 2005-02-11 19:23 | ・映画 - 日本  

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